江戸のキャッチコピー

江戸時代のキャッチコピーの紹介

都鳥

御せんじ茶 一ふく一銭の口上

 

皇之御代栄んと吾妻なる。

御蔵前に軒を並べ。

黄金花咲款冬の。

花の御客に見とれつつ。

不思茶塵に取付ぜたひ。

ホンニ麁相とおながしなく。

御贔屓強いが東都の意気地。

一ッこく価せんじ茶の。

出花を井堤や酌んずと。

浅草詣の朝早きも。

青桜通ひの黄昏にも。

ここにて御連を待乳山と。

願ふすミから隅田川。

流渡りの細元手も。

よき首尾の松折を得て。

咲灵瑞花の花川戸。

まてバ宝の山の宿。

そふむま道に行ずとも。

せめて並木な繁昌を。

何れ茂様の御蔭ニて。

雷神門と詣ともニおたてなされて被下ハ。

御恩ハわすれおくら前と。

偏ニ偏ニ奉希上候。以上

 

   永く栄ふる牛のとし

   よき商売を志ぐれ月

   今日より         坪平記述

 

           浅草 御蔵前天皇

      御休処    平野屋長八

 

 

御洗粉の説帖

店にて商ひまする。

御あらひこの功能といつは。

一包を糖弐合に御ませ常に御つかひ被成候ヘハ。

崑崙国の手習子か。煤掃にやとハれた弁慶か。炭団の化物かと。

うたがうほど色の黒き尉どのも。忽奇特あらハれて。

八朔の姝妓九段目の小波遼東の家こなやの鼠。

雪中の地蔵尊。蓋を明たる浦嶋が。七日とまたす立所に。

ぬれ手でつかむ粟津が原。

 

彼実盛が鬢のごとく。

白くなる事奇妙にて。

深山鳥が鷺となし。

向の胡麻の黒きさへ。

むかふの鶴の白さに変じ。

志ゆす。

ひ志ゆす。

志ゆちん。

どんす。

きんらん。

さや。

ちりめん。

もめん。

其外志ミ物にも。

このあらひこを御用ひなされハ。

知識にあふた狐つき。

良医を得たる童ハ疫。

さつはりとおちる事。

上手の話すはなしのことく昔々も例あるお婆婆ハ川へせんたくにも此洗粉の沙汰をきく。

流れてきたる桃のことく。

最一ッくやれと買にくる。

身仕廻部屋の噂にも。此あらひこの評判つよく。

髪洗日にさだまりし。

月の廿七日にハ姝妓がたのお手にもふれ。

疥。

飼酉。

疣。

黒痣も志ぜんとなくなりむきたての。

卵のことくつやを出し。

無塩も即西施となり。

夜鷹も即ち高尾と見へ。

 

茶屋ハむかひに閨の戸を。

あくるわびしきかつらきの。

髪の毛のちぢれしまで。

そののひる事大晦日のそばのことしされバ合羽の大仏さまも白毫の銅盥にて。

清めの御手水なさるる節ハ。

 

紅葉袋にませ玉ひ。

品川そたちの浅くわきつて。

御風聴あそばされ。

門前にいちの権現霊宝の網のめから。

手をたすことなく大ばやり是と申も御得意方の御とりたてゆへ御影ゆへ。

此うへとてもお見すてなく御ひひき大人おおはんぜう仕候様相かわらす。

八わたのかねのひびきに応じ掘出し物と御評判よろしく奉希上候。

報條分

つれつれなる真間の紅葉見。
春は上野の花の奥日くらし涼に向う嶋。
こころにうつりゆく吉原の雪の夕くれ。
足濯ぐ盥のそこはかとなく思ひまハせバ四季をりをりの楽も。
さきたつものハ口ぞかし。
いでや此世に生れて口に孝行ならぬことなく。
十王が勧進はふがため。鼻下の建立にハ。閻魔も自身に出玉ふ。
古人もすてにいへにける。
花より団子色気より喰いけ。
月の隅なきを見。花の盛りを詠るとも腹のたしは奈良坂や。このて柏にハ志かず。
東哲餅に世を避れバ。
能因餅に名を残し。盧生ハ栗餅に悟。
元政は鶉焼に諭し。
惟光子の子の餅を献じ。音八鹿の子の餅を鬻ぐ。
菖蒲団子を味わいてハ。頼政も弓を捨。大和団子を甘んじてハ。
桜田も筆を投げ。伊佐衛門が編笠焼に傾城の実をあらわし。
十左衛門が金鍔焼には。
侠客の勢を見す。
桃太郎が団子にハ。
鬼神も感じ。姝妓婦の尻餅にハ。勇者も和らき。

花に啼く鷲餅には。

是か初音の高きをいとハず。水に住む船饅頭も彼が美味名をかれり。

上戸ハこれらを山賤むれど。彼仁和寺の鼎の如き過も餅組のうへにハなく。

下戸の建たる蔵なしというへとあら打団子の名も有れハ。餅屋の蔵の酒屋に負ず。

門前にお客お得意両の手に。桃と桜が猿が餅。

もち論現金大安売。私店ハ望でハなく。待宵に三味線弾て新規普請。

新粉といふハ深川詞。まだ突出のたらハぬがち。

かちかち山の昔々兎も浪をとびたん子。拍子を揃てうっておけ。

うつの山辺の十団子も。

小粒になるとハ小判の事より唯御贔屓を代物の花と双が岡目八目。

悪き風味もよいよいとお取なし。

栄耀に餅の替らぬ繁昌。

樹に餅のなる御評判飴で餅喰ふ大入をヲソレよしか吉田の兼好

 

 

 

乍憚口上

乍憚口上
京傅作
私店之儀 中様御贔屓御取立をもつて日に増大繁盛仕、全く御得意様方御蔭故と難有仕合奉存候。
随而何がなと存付、新製の柏餅并待宵志んこと申を仕出し大安売り仕候。
扨夫ニ付、此間去る御得意様被御尋申まするハ、モシ蒲団ひとつの転寝をかしハもちと申まするハどういふいわれと申たれハ、
ハテ朝帰の猪牙船からおこつた事、なぜといやれ青楼で夜をふかすからの事じやとの御はなし、こじ付なから面白しと互に大笑ひ致し候が、
兎角大切なハ御得意様方、こふ安く商ふてハコリヤあわ焼と存れと、ほそき利久まんぢうも儲けの薄雪も木の葉せんべいかきあつめ、みちんつもつて宝の山、
かかる菓子屋を見捨て花かるやきのなき里に、すミやならへる南京落雁同然じやとおとりなし被下、
こがねの種をまきせんべい濡手で粟餅その御ひゐき御厚恩を、拙者ハ笠にかぶろまんちう、今日売出しの初音煎餅はつねのけふの玉ははき、
手に取るからにはたちまち知れる安ひうまひの御評判偏に宜しく奉希上候。以上

麦飯報條

麦飯報條

高かろうよかろう安かろうわるかろうとは、やぼの時代のたとへにて、

今ときはな御合点されず、ひつぱりみせで二の膳にすはり安札で桟敷へ上る。

売手のやすり買手のかすり、やすりかすりと云事をしらねば、今比商売はならぬとさる御方の御説法聞とそのまま早合点かしこまり、子のとろろ汁よりむぎめしの思い付、南鐐一片六進か三進、二一天作の御壱人前、つもり上げて見れば、サァやすいやすい伴頭殿のそろばんちがひ歟、ぬすみ物歟、ひけ物歟。但し又狐をつかひて馬糞でも喰わせぬかと御うたがいの御方もあらふが、そこがかのやすりとかすり、かひての仕合うりての悦、

すたった所が南鐐一片もうけた所が五十か七十、みぢんつもれば山をなし、頭巾とみせてほうかぶり、いかなお客も足かろかろと御出被成て、めしを出せコリャ酒をだせ、ヨウイ得意ならしゃんせよ。

 

きよみづ餅

平賀源内

きよみづ餅 口上

世上の下戸様がたへ申上候。

そも我朝の風格にて目出たき事に、餅の鏡、子もち、金もち、屋敷もち、道具に長持、魚に石もち、廓に坐もち、牽頭もち、家持は歌に名高く、維茂武勇かくれなく、かかるめでたき餅ゆゑに、この度おもひつきたての、器物もさつぱり清水餅、味ハ勿論よいよいと御贔屓御評判の御取もちにて、私身代もち直し、よろしき気もち、心もち、嚊もやきもち打忘れもちついて嬉しがるやら、重箱のすみから隅まで木に餅のなる御評判 奉願上候。已上

はこいり歯磨き 漱石香

平賀源内

はこいり歯磨き 漱石香 せりふ口上

トウザイトウザイ、抑私住所の儀ハ八方ツ棟作り四方に四面の蔵を建んと存立たる甲斐もなく、段々の不仕合、商いの損相つづき渋団扇にあふぎたてられ跡へも参りがたし。

然所、去る方より何ぞ元手のいらぬ商売おもい付候やうにと御引立被下候はミがきの儀、今時の皆様ハ能御存の上なれハ、かくすハ野暮の至りなり、其穴を委く尋れバ防州砂にほひを入れ、人々のおもひ付にて名を替るばかりにて元来下直の品にて御坐候へども、畢竟袋を拵候の、板行をすり候の、あののもののにて手間代に引け候。

依之此度箱入に仕、世上の袋入の目方二十袋分一箱に入御つかひ勝手よろしく袋が落ちり楊枝がよごれると申候やうなへちまな事の無之様仕、かさでせしめる積にて少しばかり利を取下直に差上候。尤薬方の儀、私ハ文盲怠才にてなんにも不存候へども是も去ル御方より御差図にて、第一に歯を白くして口中をさハやかにしあしき臭をさり熱をさまし、其外の功能ハきかずとも害にならず又伝えられた其人もまるで馬鹿でもなく候へバ、よもや悪しくハあるまいとぞんじ、教の通薬種をゑらみ随分念入調合仕、ありやうハ銭がほしさの儘早々売出し申候。御つかひ被遊候て万一不宜候ハハ、だいなし御打やり遊バされ候ても、高の志れたる御損、私方ハ塵つもつて山とやらにて大に為に相成候。一度切にて御求め下されず候ても、御恨可申上様は無御坐候。

若又御意に入り、スハ能ハと御評判被遊被下候ハハ皆様御贔屓御取立にて段々繁昌仕、表店へ罷出て金看板を輝かせ今の難儀を昔語と御引立のほど隅からすみまでつらりつと奉希上候。其為の御断左様に、クハチクハチクハチ。